「足ありき」の子ども靴選び ― 18年の子ども専門シューフィッターが行う調整加工

調整加工

はじめに

お子様の靴選びについて、Part1ではファーストシューズの時期や考え方をお伝えしました。今回はもう少し踏み込んで、当店で日々行っている「調整加工」について、お話しさせていただきたいと思います。

こども靴専門店ジェンティーレ東京を営んで18年。「同じ靴でも、一足ずつ違う」「同じお子様でも、左右の足は微妙に違う」——この当たり前のようで見落とされがちな事実と、向き合い続けてきました。

そして長年の経験の中で気づいたことは、「足に合う靴を探す」ことに加えて、「お子様一人ひとりの足に、靴を合わせていく」ことが最も大切ではないか、ということです。今日はその考え方と、具体的な調整加工の内容をご紹介できればと思います。

第1章:靴は「人」が作るもの

意外に思われるかもしれませんが、子ども靴は一足ずつ微妙に異なっています。これは、当店で扱っているイタリア製のハンドメイド本革靴に限った話ではなく、大手メーカーの機械式大量生産の靴でも、実は同じことが起きています。

ハンドメイド靴の場合、職人さんごとに作り方の癖が出ます。同じ型・同じデザインの靴でも、誰が作るかによって少しずつ違いが生まれてきます。

「では機械式大量生産なら均一なのでは?」と思われるかもしれません。ですが、その機械を設定、操作しているのは人間です。機械の設定一つで、靴の出来上がりは大きく変わってきます。

第2章:靴づくりで個体差が生まれやすい3つの工程

靴の製造工程の中には、特に個体差や微妙な差が生まれやすい場面が、大きく分けて3つあります。

① アッパーのlasting(つり込み)工程
革を靴型(ラスト)に被せて成形する工程です。革を引っ張る強さが「甘い(ゆるい)」か「辛い(きつい)」かで、靴の寸法が変わり、足へのフィット感にも影響してきます。

② センターラインのずれ
つり込みの際に靴の中心線がずれてしまうと、靴全体のバランスに微妙な差が生まれます。

③ Bottoming(靴底取付)工程
靴底を取り付ける際にも少しのずれが、歩く時のバランスに影響してきます。

こうした個体差は、製造工程上どうしても避けられないものだと感じています。だからこそ、お客様にお渡しする前の「調整加工」が大切ではないかと考えています。

第3章:当店で行う調整加工

ここからは、当店で実際に行っている調整加工をご紹介します。

① ベロ革の縫い止め加工

子ども靴には、ベロ革(タン)が付いているデザインのものと、メリージェーンシューズ(ワンストラップ)やTストラップシューズのようにベロ革が付いていないデザインのものがあります。

ベロ革が長めに作られているデザインの靴は、毎日の脱ぎ履きを繰り返すうちに、ベロ革が折れ曲がって型崩れを起こしやすい構造です。型崩れしてしまうと、お子様自身で履くのに時間がかかったり、うまく履けなくなったりすることがあります。

そこで当店では、ハイカット・ローカットにかかわらず、ベロ革のあるデザインの靴をご購入いただくすべてのお客様に、例外なくベロ革の一部(約1.0cm)を縫い止める加工を施しています。

ポイントは、お子様の足の形に合わせて、縫い止める位置を変えることです:

・甲が薄いお子様 → ストラップを締めた時の結束幅が狭くなるように
・甲が高いお子様 → 結束幅が広くなるように

これにより、フィット感を高めつつ、お子様自身で脱ぎ履きしやすい状態に仕上げています。

② ベルト抜け防止のストッパー加工

ヨーロッパの子ども靴メーカーは、足へのフィット感を重視しているため、ベルクロストラップをリングに通して折り返して留める方式がほとんどです。一方、日本の子ども靴は折り返し式ではなく、ワンタッチ式(ペッタン式)が中心で、いかに簡単に脱ぎ履きできるかが重視されています。

そのため、ヨーロッパ式の折り返しストラップは、フィット感は良いものの、日本の脱ぎ履きの多い生活様式では、ストラップがリングから抜けてしまうことがあります。

ご希望のお客様には、革パーツを縫い込んでストッパーをつくり、ストラップがリングから抜けないように加工しています。これにより、ヨーロッパ式の本来のフィット感を保ちながら、日本の生活様式にも合った使いやすさを両立できるのではないかと思っています。

③ 靴底の補正加工

歩行の際に、足首のプロネーション(内側に倒れる動き)やサピネーション(外側に倒れる動き)、また脚の特徴であるO脚やX脚の影響で、内側または外側に体重が乗りすぎているお子様がいらっしゃいます。こうした特徴は、本人や親御さんが気づきにくいこともありますが、靴底の減り方や歩く姿勢に表れてきます。

そうした場合は、正しいバランスで歩いていただけるよう、靴底を加工して補正しています。

画像のように、お子様の足の特徴に合わせて、かかと部分の特定の箇所に補正材を加え、体重のバランスを整えていきます。

なお、この靴底の補正加工は、画像のような「ヒール付き天然クレープゴムソール」のタイプの靴に限らせていただいております。

④ 外踝(外くるぶし)のカット加工(ローカットシューズ)

実は私自身、子どもの頃から外踝の位置が低いほうで、海外メーカーのスニーカーや、大人になってからは革靴で外踝が靴の縁に当たって痛い思いをしてきました。そんな自分の経験も重なって、お客様のお子様の足を計測する際には、当然ながら外踝の位置を必ず確認するようにしています。

当店で長年お子様の足を見てきた中で感じていることですが、日本人のお子様は欧米人に比べて、外踝の位置が低い傾向があるように思います。

そのため、欧米製に限らず、ローカットシューズをフィッティングすると、外踝が靴の縁に当たってしまうお子様が、10人に1〜2人ほどいらっしゃいます。せっかく足にジャストフィットしているのに、外踝だけが当たってしまう――そんなケースが多いのが実情です。

特に、ワンストラップシューズは通学靴として多くの女の子に履いていただいておりますが、外踝が当たってしまうと、毎日の通学で大変な苦痛が伴うことになります。

その場合は、外踝が当たる部分を「市切(いちきり)」という専用の道具を使って丁寧にカットし、断面が美しく仕上がるよう処理しています。

子どもの頃の私自身がそうであったように、痛みを我慢して靴を履くお子様がひとりでも減るように――そんな思いで、この加工を続けています。

⑤ インソールの調整

ここが、当店の調整加工の中で最も大切にしている部分かもしれません。

足のプロポーションは千差万別です。しかし市販の靴は、せいぜいスリム幅・中間幅・ワイド幅の3種類程度しかありません。

このギャップを埋めるために、当店ではすべてのお子様に、ドイツ・EMSOLD社のパッド材料を使ったインソール調整を行っています。

お子様の足の骨格や歩き方に合わせて、数種類の材料の中から選び、その場で削って成形していきます。狙いは、靴のフィット感を高めることと同時に、足の骨格の配列を整えて、土踏まずの発育や正しい歩き方へとつなげていくことです。

調整後は必ず試し履きの歩行で効果を確認し、不十分であれば、その場で再度調整します。

作業時間について

初めてのお客様の場合、基本の調整(ベロ革の縫い止め+インソール調整)で約35分ほどお時間をいただいています。ベルトのストッパー加工が加わる場合は、さらに約20分ほどかかります。

一足のお靴を仕上げるのに、合わせて1時間近くかかることもありますが、お子様の足に本当に合った一足をお渡しするためには、必要な時間ではないかと考えています。

リピートでご来店いただくお客様は、お子様の足の特徴をすでに把握させていただいておりますので、少しお時間が短くなります。

第4章:なぜ、ここまでするのか

Part1でお伝えしたように、足の成長期は、生まれてからわずか15年ほどで終わってしまいます。

この限られた成長期に、足の骨の配列を整え、正しい歩き方ができる環境をつくることは、お子様の一生の健康に関わるとても大切なことではないかと、長年の経験の中で感じています。

足のプロポーションは千差万別。しかし靴の幅展開は、限られています。

このギャップを埋めるのが、シューフィッターの大切な役割の一つだと思っています。

「靴ありき」だけでなく、「足ありき」の視点を大切に。

そして何より――ぴったりとフィットして歩きやすい靴を履いた時の、お子様の笑顔。それが、私がこの仕事を続けてこられた、何よりの原動力です。

一足ずつ、お子様一人ひとりの足に合わせて丁寧に仕上げていく――これが、ジェンティーレ東京の18年間、変わらず守り続けてきたことです。

おわりに

調整加工というと、特別なサービスのように聞こえるかもしれません。ですが私にとっては、これは「靴を販売する」ことと同じくらい当たり前の、欠かせない工程だと思っています。

お子様の足は、一日たりとも止まることなく成長しています。その大切な時期に寄り添える一足を、これからも心を込めて仕上げていきたいと思います。

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